土地家屋調査士の現地作業を効率化、境界の 3D 表示もひと目でわかると好評
Customer Case Study - 事例
フェイスフル登記測量は、大阪市を本拠に、関西一円で事業展開する土地家屋調査士事務所である。土地家屋調査士とは、土地・建物の所在・形状等を調査・測量し、法務局へ登記手続きをする専門家だ。不動産の状況を登記記録へ正確に反映することによって、不動産取引の安全性確保、企業・個人の財産の明確化、相続等に伴うトラブル回避に貢献する公共性の高い仕事である。フェイスフル登記測量は、2019年11月にライカジオシステムズのイメージングレーザースキャナー「Leica BLK360」を導入して、現地測量作業のスピードアップ、効率化に成功した。次の目標として、3Dデータのさらなる活用・応用にチャレンジしている。
3D レーザースキャナーで現地作業のスピードアップを目指す
「土地家屋調査士とは、土地については、境界を確定測量したり地目(土地の用途区分)の調査を行ったりして、調査結果を法務局に登記申請します。建物に関しては、種類・構造・床面積を調査・測量し、これも法務局に登記申請します」と、フェイスフル登記測量を運営する土地家屋調査士の仲田隆司氏は紹介する。
フェイスフル登記測量の顧客は、注文建築や建売を手がける不動産会社を中心に、建築会社、設計事務所など。土地の測量・登記については、企業や個人からの直接依頼も多い。
「『境界』という目に見えないものを測量し、査定していますから、緻密かつ誠実な作業が大前提となります。隣接所有者との立ち会いにおける説明力など、業界に精通した経験値も不可欠です。ただし、『登記する』という最終結果さえ得られれば、サービス内容よりも、スピードや価格が評価されがちでもあります。そこでわたしはお客様がスピードや価格を求めるのであれば、それに応える企業努力が必要であると考え、新しいやり方・最新技術を積極的に研究してきました」と仲田氏は語る。
業務のスピードアップやムダな工数の削減をして、より良い案件対応・顧客対応をしていきたい。そこで注目したのが、3Dレーザースキャナーである。
BLK360 の“機動力”がアドバンテージを生み出す
業務革新の方法を模索していた仲田氏が、3Dレーザースキャナーを使う機会を得たのは2019 年のことだ。
「点群合成や不要点削除・変化点抽出など、測量後のパソコン作業が新たに増えますが、現地作業の時間を確実に減らせる意義は大きいと感じました。計測を1人で完結できるコンパクトな機械を選べば、現地作業のやり方を大きく変えられるでしょう」と仲田氏。複数製品を検討したうえで、選択したのが、BLK360 である。
決め手になったのは、性能、機動性、価格だ。「他社製品、およびライカジオシステムズの他機種も検討しましたが、BLK360 は非常にコンパクトでしかも高性能なのが気に入りました。縦長であるため、狭い所の計測にも便利です」と仲田氏。
同時に検討した他社製品は、重量がBLK360の約4倍、価格は約2.2倍であった。「軽量で機動性に優れているということは、気軽に『普段使い』ができるということであり、投資効果から見てもかなりのアドバンテージになると判断しました」と仲田氏は言う。
見通しが悪くストレスの大きい現場を、悩まず楽々と計測
2019 年11月、BLK360 を導入してすぐに、仲田氏は優れた機動力がもたらすさまざまな効果を実感した。
従来から行ってきたトータルステーションによるトラバース測量は、2人作業が基本だ。1人がプリズムを持って計測点に移動し、もう1人がトータルステーションでそれを測定。プリズムを次の測点に移動し、トータルステーションで再び計測する。移動させたプリズムを置いた点をトータルステーションで順番に追いかけて、トラバース測量(多角測量)をする。トラバース測量では、測点間で見通しがきかない場所は測定できないため、樹や壁でさえぎられれば、測点を増やして壁の外周を迂回するなど、知恵を絞り、労力を増やす必要がある。
「高い塀の間を階段で登っていって玄関に到着するといった見通しの悪い現場は、トータルステーションでは非常に測定しにくく、ストレスを感じます。ところが BLK360 は、器械点同士の見通しがさえぎられても気にする必要がありません。調査地の複数箇所にBLK360 を設置して点群を取得してしまえば、例えば壁がない横のほうに見えている電柱を目印にして、点群合成ができます。見通しが悪くストレスが大きい現場でも、悩まずに、最小のスキャン回数で計測データが取れてしまうので、現地作業の時間短縮という大きなメリットが得られます」と仲田氏は強調する。
見通しが悪く、トータルステーションでは測定しにくい現場でも、BLK360 はスムーズに計測できる。青い丸印が BLK360 を置いた器械点である。右の白い塀の部分では、器械点同士の見通しがきかず点線リンクが途切れているが、問題なく点群合成できた。
前図の現場を上から見た画像。器械点は12カ所。そのうちの3点だけ世界測地系座標の合成の目印となるマーカーを設置した。1点5分程度でスキャンできるので、合計1時間余りで現地作業が完了したことになる。しかもどこに器械点を置くか、ほとんど悩まず、ストレスなく作業を完了した。
同じ三次元測量でも写真測量とは異なり、3Dレーザースキャナーは薄暗い早朝や夕方でも測量できるため、現地作業のスケジューリングに融通が利くのも魅力だ。
「仕事を依頼された時点で、『建物は明日取り壊すけど』と聞き、あわてて BLK360 を持って現地へ行ったこともあります。もう夕方でしたが問題なく、1人作業できちんとデータを取れました」と仲田氏。この件では後日、隣地の方を交えての立ち会いで、「取り壊された建物とうちの壁とのちょうど真ん中が境界だった」、「すると、お宅のこの屋根は境界を越境していませんか」といったやりとりが発生した。建物はすでにないが、仲田氏は BLK360の3D画像をその場で示すことで、境界線の正確な位置を双方に納得してもらい、トラブルを未然に防ぐことができた。
仕事を依頼された時点で、「建物は明日取り壊す」と言われて、仲田氏が1人で急いで計測した物件。中央下方向の正方形の建物の屋根が越境しているのではないかと、後日の立ち会い時に問題になったが、越境していないことがひと目でわかる。
また、仮測量では特に、BLK360 の利便性を痛感する。
通常の測量は、最寄りの公共基準点から現場付近に測量の目印となるトラバー点を設置し、そのトラバー点に世界測地系座標を関連付けしてから、その日の作業を開始する。現場データを世界測地系座標に変換するのが目的のこの「公共基準点の取り付け」には、2人がかりで3時間程度かかる。大事だが手間のかかる作業を、冒頭に行わなければならない。
ところが、BLK360 では、公共基準点の取り付けを行わずに仮測量を始められる。公共基準点から現場付近に設置したトラバー点に世界測地系座標を関連付ける従来の方法とは逆に、現場から最寄りの公共基準点に点群データをつないで座標変換するのだ。もちろん最終的には、従来の方法で公共基準点の取り付けを行ったうえで各境界点をトータルステーションで正確に測量するのだが、取り急ぎで現況測量を1人で行うときでも、世界測地系座標と関連づけた現場データを取得できるメリットは大きい。
もうひとつ、追加計測が不要になったことも、現地作業の時間短縮に大きく貢献している。これまで、境界線を計測・査定して平面図を納品した後で、「境界はわかったので、今度はレベル(高低差、勾配)を測量してください」と追加依頼されたり、指示された位置の断面図を作成して提示すると、「あ、こっちの位置の断面図もほしいな」と急に言われたりすることは多々あった。
従来は、そのたびに現地へ再度行き、もう一度計測をやり直していた。あるいは、現地作業中に、「依頼されていないけれど、ここも計測しておいたほうがいいかもしれない」という判断でなんとかうまく対応してきた。しかし、現地再訪はもちろん、「念のために多めにとっておく」ことも、余分でムダな作業であり、ロスタイムを増やすことになる。
「BLK360 で、この『現地作業やり直し』の問題も解消しました。3Dデータがありますから、レベル測定でも、断面図でも、追加依頼があればパソコン処理ですぐ対応できます。それどころか、『隣家の窓の高さはどのくらいだったか』といきなり聞かれても、すぐに3D画像を提示してお答えできるのです」と仲田氏はにっこりする。
トータルで 3 割程度の作業工数削減
当初の期待どおり、BLK360 は、現地作業時間の短縮という大きな成果をもたらした。「100坪程度の一軒家の例を表にしてみました。現況測量は、トータルステーションだけなら2人で3時間かかるところを、 BLK360を使って1人で3時間で完了しました。6人時が3人時へと工数が半減したわけです」と仲田氏は説明する(「BLK360 導入前/ 導入後の作業工数比較表」参照)。
この表に見るとおり、BLK360 導入後も、精度が求められる公共基準点取り付けや境界標識測量にはトータルステーションによる2人作業を従来どおりに行っている。また、測量後の事務所作業として、「点群の合成」と、「不要点削除などの点群編集作業」が導入後に加わった。
これらをプラスマイナスすると、従来「25人時」かかっていた業務が「17人時」へと工数が短縮されたことがわかる。約3割減だ。
「すべての測量を BLK360 だけで完結させることはむずかしいですが、公共基準点を設定しない仮測量の場合は、時間短縮効果がもっと明確です。2人で4時間かかる作業を、1人で2時間で完了できたこともあります、4分の1の工数短縮ですね。従来は、仮測量であっても、トータルステーションをかついで2人で出向かなければなりませんでした」と仲田氏は補足する。
また、単なる工数の数値削減にとどまらず、1人が BLK360 で現況測量している間に、もう1人は役所へ行って書類調査ができるなど、2人が並行して他のことをできるようになったこと、および、1人で完結できる業務が増えたことの意義も大きい。業務の自由度が高まったのだ。
今後、「3D画像を提供できる」、「3Dデータを解析できる」というフェイスフル登記測量ならではの強みは、他社差別化やビジネスチャンス拡大につながっていくと期待される。
すでに、点群データのポイントを説明する動画を制作したり、点群データの中に境界点・境界線を浮かび上がらせた3D画像を図面に添付したりして、顧客や関係者からわかりやすいと喜ばれている。また、Windows さえあれば計測操作ができるビューワと共に3Dデータを提供したところ、建売住宅の設計に活かそうという顧客も現れている。 3Dデータ活用に対する社会的な認知が高まれば、注目度はさらに高まるはずだ。
フェイスフル登記測量が作成した点群の中に境界点・境界線を浮かび上がらせた3D動画
そのほか。ドローンを使った UAV 測量と、BLK360 を組み合わせることで、仕事の幅を広げる可能性もある。
UAV 測量は、広いエリアを短時間で測量できる。ただし、高速道路のそばは飛ばせない、警察をはじめとする関係各所へ飛行の事前通知をしておかなければならないなど、法規制が厳しい。
BLK360 であれば、基本的に測量できない場所はない。墜落の危険もなく、安全に測量できる。写真測量ではなくレーザー測量であるため、夜間でもデータ取得が可能。小雨でも作業できる。
広い敷地部分は UAV 測量を行いつつ、高速道路や建物の密集した市街地のそばなど、ドローンを飛ばせない場所は BLK360で測量して、両者の3Dデータを合成するなど、仲田氏は新たな取り組みを考えている。
将来の不動産登記3D 化に大きな期待
仲田氏は次の目標として、土地家屋調査士の業務の枠を超えて、3Dスキャンデータ応用の可能性にチャレンジしたいと考えている。
そのひとつとして、ノートルダム寺院、首里城などの焼失が相次ぐなかで、重要文化財をアーカイブする実証実験の公募があり、仲田氏は企画書を出しているところだ。重要文化財の真上はドローンを飛ばせないため、BLK360 を縦横無尽に活用することになる。
不動産登記の3D化にも大きな期待を寄せている。現在の不動産登記には平面図が求められるため、せっかく取得した3Dデータを情報量の少ない2Dデータへ変換する手間をかけている。「現状の登記簿は平面の情報であり、地積(土地の面積)しか登記されていません。しかし、同じ面積の土地でも、平らな土地と急勾配の土地では価値が大きく異なります。登記が3D化して高さの情報を持った世界測地系座標で統一されれば、登記簿を見るだけで、その土地の評価等の判断材料が増えます。不動産会社、設計会社はもちろん、地域のインフラ整備を企画する地方自治体にも、非常に有益な情報となると思うのです」と仲田氏。
不動産登記を3D化するには、法務局システムの改変、法改正など、乗り越えなければならない壁はある。しかし、土木建設業界のi-Construction 施策と同様、取り組む価値が大きい改革であると、仲田氏の夢は広がる。